行政書士はなぜ自賠責保険請求の代理行為ができるのか?その法的根拠とは

行政書士はなぜ自賠責保険請求の代理行為ができるのか?その法的根拠とは

2020年5月22日 オフ 投稿者: 田中

私たち行政書士は、さまざまな書類作成の代行を業務の範囲としています。
当然のように日々行っている業務ですが、どの業務も法的根拠に基づいて行われています。
そこで今回は、あまり知られていない「業務の法的根拠」について解説したいと思います。

[行政書士業務の法的根拠とは?]

行政書士の業務範囲は「行政書士法」という法律によって規定されています。
それによると行政書士の業務は「他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類その他権利義務又は事実証明に関する書類を作成すること」(第1条の2)と定義されています。
随分と難しい書き方をされていますが、要するに「役所などの官公署に提出する、他人の書類を代わりに作ってあげる仕事」というわけです。

[交通事故業務の法的根拠]

行政書士の主力業務の一つに、交通事故業務があります。
その内容は①自賠責保険請求書類の作成・手続き代行 ②その他の書類作成 ③交通事故に関する相談業務 の3つです。

【①自賠責保険請求手続きの法的根拠】

3つの業務の中でも自賠責保険請求手続き業務は近年ニーズが高まりつつある業務で、その法的根拠を解説すると以下のようになります。

自賠責保険請求手続きは民間の損害保険会社が窓口となって行っているが、「自動車損害賠償保障法及び自動車損害賠償保障法施行令」という法律によって規制され、国土交通省自動車局が所管となっている。
そのため手続きは、官公署の中でも「許認可業務」ではなく「その他権利義務又は事実証明に関する書類」の作成業務に当たる。

という具合です。

【②その他書類作成の法的根拠】

交通事故業務における「その他」の書類とは「自賠責保険請求書類」以外の書類を指します。
具体的には

  • 損害額の計算書及び積算明細書
  • 事故発生状況の報告書
  • 被害者・加害者双方が合意した示談書

などです。

この業務は行政書士法(第1条の3)により、一見法的根拠を得ているように見えます。
しかし同条の但し書きには「他の法律において制限されている」ものに関しては業務が行えない旨の記載があり、その「他の法律において制限されている」ものの代表として弁護士法(72条)の存在が挙げられます。

【行政書士法第1条の3】
(業務)
第一条の二 行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。以下この条及び次条において同じ。)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。
2 行政書士は、前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。
第一条の三 行政書士は、前条に規定する業務のほか、他人の依頼を受け報酬を得て、次に掲げる事務を業とすることができる。ただし、他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項については、この限りでない。
一 前条の規定により行政書士が作成することができる官公署に提出する書類を官公署に提出する手続及び当該官公署に提出する書類に係る許認可等(行政手続法(平成五年法律第八十八号)第二条第三号に規定する許認可等及び当該書類の受理をいう。次号において同じ。)に関して行われる聴聞又は弁明の機会の付与の手続その他の意見陳述のための手続において当該官公署に対してする行為(弁護士法(昭和二十四年法律第二百五号)第七十二条に規定する法律事件に関する法律事務に該当するものを除く。)について代理すること。
二 前条の規定により行政書士が作成した官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立ての手続について代理し、及びその手続について官公署に提出する書類を作成すること。
三 前条の規定により行政書士が作成することができる契約その他に関する書類を代理人として作成すること。

【弁護士法第72条】
(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

弁護士法(第72条)に対する解釈は行政書士の間でも意見が分かれていますが、弁護士からの批判を受けるなど業務上議論の余地が残るため、行政書士が積極的に介入する業務とは言えません。

【③交通事故に関する相談業務の法的根拠】

交通事故業務における相談業務については、行政書士法(第1条の3)により法的根拠が与えられています。

【行政書士法第1条の3-4項】
四 前条の規定により行政書士が作成することができる書類の作成について相談に応ずること。

条文の通り、行政書士の相談業務は、作成できる書類に関す相談が業務範囲です。
前項で解説したように、一部では弁護士との兼ね合いで相談を受けにくい内容もありますが「書類作成できる=相談もOK」との認識でよいと思います。

[交通事故の際、自賠責保険を活用するメリット]

交通事故の損害を補償する保険には、自賠責保険と任意保険の2種類があります。
一般的には交通事故に遭った場合、任意保険の会社に連絡を取り、終結まで進めてもらうケースが多いです。
そのため支払いなども任意保険を中心に行われているイメージがありますが、実は自賠責保険の特性を活用して、被害者に有利な進め方ができる場合があります。

【被害者請求を利用する】

交通事故の加害者が任意保険に加入している場合、被害者は任意保険会社とやり取りをして損害賠償を補償していもらいます。
そのため被害者に後遺障害が残ってしまった場合は任意保険会社が自賠責保険会社と連絡を取り、自賠責保険で適用される等級認定の申請をしたり、自賠責保険で補償される額を回収したりします。
しかし全ての手続きを加害者側の任意保険会社にお任せすることになるので、被害者の中には「ちゃんと対応してくれるのか?」と不安に思う方もいることでしょう。
そんな時に利用して欲しいのが「被害者請求」という権利です。
被害者請求とは、被害者自ら自賠責保険会社に等級認定申請をする権利なので、損害の状況をより正確に伝えることができます。
等級認定は損害賠償額の算定に用いられる大切な算定基準です。
加害者側の任意保険会社に丸投げするのではなく、必要だと感じた時は被害者請求を利用して、より実情にあった認定をしてもらえるようにしましょう。

[交通事故の発生から終結までの流れ]

交通事故が発生し被害者に後遺障害が残ってしまった場合、発生から終結までの流れは以下のようになります。

[交通事故発生]
  ↓
[治療]
  ↓
[一定期間治療したが完治しない]
  ↓
[症状の固定]
  ↓
[自賠責保険に対して後遺障害等級認定を申請]
 (被害者自身での請求も可能)
  ↓
[示談交渉]
  ↓
[損害賠償金の受け取り]
  ↓
[終結]

以上、ご参考になさってください。