交通事故における被害者請求について
今回は交通事故における被害者請求について解説します。
~被害者請求とは~
被害者請求とは、被害者自身が加害者の保険会社に対し損害賠償金の支払いを請求することをいいます。
本来保険は、保険会社を保険者、交通事故の加害者(保険加入者)を被保険者とし、保険者から被保険者に対して保険金を支払うのが原則です。つまり、交通事故が発生し加害者に損害賠償義務が発生した場合、加害者には損害賠償義務が発生します。そして、加害者が被害者に損害賠償金を支払った後、加害者が保険会社に保険金を請求する(これを被害者請求に対して加害者請求といいます)のが本来の形です。
しかし、この形では加害者が何らかの理由で損害賠償金を被害者に支払わないという場合、被害者を救済することができませんし、仮に支払った場合でも手続きとして迂遠です。そこで、被害者救済のために設けられたのが被害者請求という制度です。
自動車保険は自賠責保険と任意保険の2種類があります。
被害者請求は、自賠責保険については自動車損害賠償保障法という法律に規定されている法律上の権利です。他方、任意保険については法律上の権利ではありませんが、加害者の保険契約の約款に被害請求に関する条項が規定されていれば被害者請求することが可能です。
自動車損害賠償保障法16条1項
第3条の規定による保有者の損害賠償の責任が発生したときは、被害者は、政令で定めるところにより、保険会社に対し、保険金額の限度において、損害賠償額の支払をなすべきことを請求することができる。
以下では、自賠責保険における被害者請求について解説してまいります。
~被害者請求には「仮渡金請求」、「本請求」~
被害者請求には「仮渡金請求」と「本請求」の2種類があります。
加害者が任意保険に加入している場合、被害者に損害賠償金が支払われる通常の流れとしては、
①交通事故発生
↓
②病院受診&通院
↓
③保険会社の一括対応(※)
↓
④保険会社からの症状固定の打診&症状固定
↓
⑤(後遺障害が発生した場合)後遺障害等級認定の申請&認定
↓
⑥示談成立
↓
⑦損害賠償金の支払い
という流れが一般的と思います。
つまり、損害賠償金は示談が成立してから支払われるのが一般的です。示談が成立しなければ最終的な賠償金額が確定しないからです。
しかし、示談成立を待っていては被害者の救済が図れない場合もあります。そのために設けられたのが「仮渡金請求」という制度(自動車損害賠償保障法17条1項)です。仮渡金請求は被害者救済を目的としていますから、仮渡金は示談成立前に、被害者の過失に関わりなく受け取ることができる当面の生活を保障するための一時金的なものです。ただ、仮渡金請求はあくまで「仮」の制度ですから、最終的な金額が確定した後(示談成立後)、最終的に確定した賠償金より仮渡金請求で受け取った金額の方が多かった場合は、その差額分を自賠責保険会社に返還しなければなりません(同法17条3項)。請求は1回のみで、代理による請求は不可です。
なお、仮渡金は死亡、あるいは怪我、怪我の程度によって受け取れる金額が決まっています。
死亡:290万円
怪我:怪我の程度に応じて40万円、20万円、5万円
仮渡金請求に対して最終的な賠償金の獲得を目的として行うのが「本請求」です(自動車損害賠償保障法16条1項)。本請求の前に仮渡金を受け取っていた場合は、賠償金からその分が差し引かれます。また、自賠責保険は必要最小限の範囲内での被害者救済を目的とするものですから、自賠責保険で受け取れる金額には限度があります。
死亡:3000万円
怪我:120万円
後遺障害:介護が必要な場合 4000万円、3000万円
介護が必要でない場合 3000万円~75万円
任意保険会社の②一括対応(※保険会社が自賠責保険分と任意保険分の損害額を一括して支払う方法)に委ねる場合は、被害者が積極的にアクションを起こす必要はありません。しかし、被害者請求する場合はそうはいきません。
仮渡金請求の場合も本請求の場合も必要書類を自賠責保険会社に提出して行う必要があります。手続きには手間や時間がかかりますから、面倒な方は専門家に委ねるのも一つの方法です。
なお、仮渡金請求に加えて本請求する場合、仮渡金請求時に提出した書類は本請求時に提出する必要はありません。
~被害者請求すべき場合~
では、どのような場合に被害者請求すべきでしょうか?
=加害者が任意保険に加入していない場合=
加害者が任意保険に加入していない場合は、加害者に資力がなく損害賠償金を支払ってもらえないという可能性も否定できません。そうした場合に備えて被害者請求する意義があります。
=過失割合などを巡って加害者側ともめている場合=
加害者側と交通事故でもめている場合は、仮に加害者が任意保険に加入していたとしても保険会社が治療費等を病院へ支払ってくれない可能性もあります。そうした場合は被害者請求(仮渡金請求)をする意義があるでしょう。
=後遺障害等級の認定を受けたい場合=
後遺障害等級の認定を受ける方法は「事前認定」と「被害者請求」の2通りがあります。事前認定は保険会社の一括対応に委ねる方法です。ただ、これでは「適切な後遺障害等級を受けてくれるのか不安だ」という方は被害者請求を選択すべきでしょう。