交通事故における弁護士と行政書士の業務範囲
交通事故の被害に遭った場合、弁護士と行政書士のどちらに相談すべきか、依頼すべきか迷われる方もいるのではないでしょうか?そのヒントを得るためには、交通事故における弁護士と行政書士の業務範囲の違いについて知っていただくとよいかと思います。
そこで、今回は交通事故における弁護士と行政書士の業務範囲について解説します。
~交通事故と弁護士の業務範囲~
弁護士の業務範囲については弁護士法という法律で規定されています。弁護士法(3条、72条)によると、弁護士は、報酬を得る目的で、
・法律相談を受けること
・必要書類を収集し、作成すること
・依頼者の代理人として相手方と交渉(和解交渉、示談交渉)し、場合によっては訴訟を提起して(あるいはその反対の立場で)裁判、調停の場に立ち訴訟行為を行うこと
など、とにかく法律事務全般を行うことができるとされています。しかし、行政書士も含め弁護士でない人が報酬を得る目的で、上記でご紹介したような法律事務を取り扱うことは認められていません。仮に取り扱った場合は「非弁行為」といって処罰される可能性があります(弁護士法77条3号)。
~交通事故と行政書士の業務範囲~
また、行政書士の業務範囲については行政書士法という法律で規定されています。行政書士法によると、行政書士は、依頼を受け報酬を得て
・官公庁に提出する書類、その他権利義務又は事実証明に関する書類を作成すること
ができるとされています(行政書士法1条の2第1項)。つまり、行政書士の主な業務は「書類を作成すること」ということになります。
「権利義務に関する書類」としては示談書があります。行政書士は依頼者に代わって示談書を作成することができます(ただし、相手方と示談交渉はできません)。
「事実証明に関する書類」としては交通事故発生状況報告書があります。被害者が加害者の自賠責保険会社に対して「被害者請求」する場合や健康保険を使って自ら治療費を負担する場合に必要とされる書類です。
*被害者請求と行政書士の業務範囲について*
被害者請求とは、交通事故の被害者自身が加害者の保険会社(自賠責、任意を問わず)に対して保険金の支払いを請求することをいいます。
このうち自賠責保険については、本請求については自動車損賠賠償保障法16条を、仮渡金請求については同法17条根拠としており、同請求の手続き(書類作成など)を行政書士が行えるかが問題となることがあります。
この点、弁護士法72条の「その他一般の法律事務」の意義に関して、「法的紛議が生ずることがほぼ不可避であるもの」と解した判例(平成22年7月20日)があります。この判例からすると「いくら書類の作成とはいっても、法的紛議が生ずることがほぼ不可避である案件に関する書類について作成することは弁護士法に違反する(=行政書士は作成できない)」ということになります。実際に判例では、行政書士が後遺障害等級認定のため作成した整形外科宛の上申書や自賠責保険会社宛の保険金請求に関する書類は、依頼者らの有利な等級認定を受けさせるために必要な事実や法的判断を含む意見が記載されていたことが認められ、弁護士法72条の「その他一般の法律事務」を取り扱う過程で作成されたものであるから「権利義務又は事実証明に関する書類」とはいえない、と判示されています。
他方で、相当昔の話ですが、旧自治省(現:総務省)から日本行政書士連合会長宛に、行政書士が被害者請求に関する書類を作成することを容認するかのような回答がなされています。そして、これを根拠に被害者請求に関する書類を作成したり、後遺障害等級認定申請のため、あるいは非該当となった場合の異議申し立てのための書類を作成する行政書士の方もおられます(インターネットで検索するとそうした業務を受け付けている行政書士の方が多く散見されます)。また、被害者請求といっても上記のとおり「仮渡金請求」と「本請求」の2とおりがあり、前者にかかる事務については請求できる金額が決まっており、金額も比較的高額ではないこと(死亡の場合は290万円、傷害の場合は怪我の内容・程度に応じて40万円、20万円、5万円)などから「法的紛議が生ずることがほぼ不可避である案件」とはいえず、行政書士でも当該被害者請求にかかる書類については作成できるものと考えられます。他方で、本請求については過失割合(交通事故に対する責任の重さで、最終的な損害賠償金に影響する)や過失割合を認定するための事故状況などについて加害者側ともめる可能性があり、本請求にかかる事務については「法的紛議が生ずることがほぼ不可避である案件」に当たる可能性があります。したがって、本請求にかかる書類の作成については慎重にならざるをえません。
以上、弁護士、行政書士の業務範囲について解説しましたが、被害者の方にとっては解説だけでは結局はどちらに依頼してよいか分からない、というのが正直なところだと思います。ご相談に来ていただければ、その点も含めて正直に回答しますので、まずはお気軽にご相談ください。
以上