後遺障害、後遺障害等級について

後遺障害、後遺障害等級について

2020年1月26日 オフ 投稿者: 田中

今回は後遺障害、後遺障害等級について解説します。

~後遺障害、後遺障害等級とは~

後遺障害とは、交通事故によって何らかの症状が残存し、将来的にその症状の改善が見込めなくなった状態となったときに残存した障害のことをいいます。この「将来的に症状の改善が見込めなくなった状態」のことを症状固定といいます。

後遺障害等級はこの後遺障害の程度(重さ・酷さ)を等級(レベル)で表したものをいいます。後遺障害等級は自動車損害賠償保障法施行令2条の別表第一及び別表第二に規定されています。別表第一は「介護を要する後遺障害」のための等級表で、別表第二はそれ以外の後遺障害のための等級表です。別表第二の等級は一級から十四級まであり一級が最も重たく、十四級が最も軽い後遺障害の等級です。さらに級ごとに一号から最大十四号まで設けられ、その号ごとに細かく後遺障害の症状が規定されています。そして、等級に応じた保険金の限度額が設定されています。等級一級と十四級は以下のとおりです。

【後遺障害等級一級、十四級の例】

等級 後遺障害 保険金額
第一級 一 両眼が失明したもの
二 咀嚼及び言語機能を廃したもの
三 両上肢をひじ関節以上で失ったもの
四 両上肢の用を全廃したもの
五 両下肢をひざ関節以上で失ったもの
六 両下肢の用を全廃したもの
三千万円
第十四級 一 一眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつはげを残すもの
二 三歯以上に対し歯科補綴(てつ)を加えたもの
三 一耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの
四 上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
五 下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
六 一手のおや指以外の手指の指骨の一部を失ったもの
七 一手のおや指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの
八 一足の第三の足指以下の一又は二の足指の用を廃したもの
九 局部に神経症状を残すもの
七十五万円

 

なお、交通事故の怪我で多いむち打ちについては第十四級九号(「局部に神経症状を残すもの」あるいは第十二級第十三号(局部に頑固な神経症状を残すもの)のいずれかに当たることが多いです。

ただ、いずれにしても表現が抽象的で、いかなる場合に当該号数に当たるのか基準も公開されていないため、適切な等級が認定されるか不透明なところもあります。

~後遺障害等級が活用される場面~

では、後遺障害等級はいかなる場面で活用されるのでしょうか?

それは、「後遺障害のための逸失利益」と「後遺障害慰謝料」のための算定のために活用されます。

後遺障害のための逸失利益とは、後遺障害によって労働能力が充分に発揮できなかったことによって収入(利益)が減少してしまうことを損害とし、その損害の程度を金銭(損害賠償額)に評価しなおしたものです。後遺障害等級の逸失利益は

 

「基礎収入」×「後遺障害等級に対応した労働能力喪失率」×「後遺症障害等級確定時の労働能力喪失期間に対応したライプニッツ係数」

 

により求められます。「後遺障害等級に対応した労働能力喪失率」は以下のとおりです。

 

障害等級 労働能力喪失率
第1級 100/100
第2級 100/100
第3級 100/100
第4級  92/100
第5級  79/100
第6級  67/100
第7級  56/100
第8級  45/100
第9級  35/100
第10級  27/100
第11級  20/100
第12級  14/100
第13級   9/100
第14級   5/100

(労働基準局長通牒 昭和32年7月2日基発第551号による)

このことから後遺障害等級が重たければ重たいほど労働能力喪失率は高くなりますから、後遺障害による逸失利益(損害額)も高くなることが分かります。

次に、後遺障害慰謝料は後遺障害による受けた精神的苦痛の程度(損害)を金銭に評価しなおしたものです。後遺障害慰謝料は自賠責基準、任意保険基準、裁判所(弁護士)基準のいずれかの基準に基づき算定されます。

自賠責基準は必要最小限の基準を定めたもの、任意保険基準は各保険会社が独自で定めた基準、裁判所(弁護士)基準は過去の裁判例などをベースとしたもので、裁判や弁護士が行う交渉の際に用いられる基準です。慰謝料は自賠責基準よりも任意保険基準が任意保険基準よりも裁判所(弁護士)基準の方が高くなります。

任意保険基準は一般には公開されていませんので、以下では自賠責基準と裁判所(弁護士)基準をご紹介します。

 

【自賠責基準】(平成13年 金融庁・国土交通省 告示第1号 自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払い基準)

介護を要する後遺障害の場合

第1級 第2級
1600万円 1163万円

後遺障害の場合

第1級 1100万円 第8級 324万円
第2級  958万円 第9級 245万円
第3級  829万円 第10級 187万円
第4級  712万円 第11級 135万円
第5級  599万円 第12級  93万円
第6級  498万円 第13級  57万円
第7級  409万円 第14級  32万円

【裁判所(弁護士)基準】

第1級 2800万円 第8級  830万円
第2級 2370万円 第9級  690万円
第3級 1990万円 第10級  550万円
第4級 1670万円 第11級  420万円
第5級 1440万円 第12級  290万円
第6級 1180万円 第13級  180万円
第7級 1000万円 第14級  110万円

なお、14級を見ると、自賠責基準では32万円、裁判所(弁護士)基準では110万円と約3場合もの開きがあることが分かります。裁判所(弁護士)基準に基づいて交渉した方が最終的に獲得できる損害額が大きくなる可能性があります。